小高い丘の上から遠くを見渡すことができるチャム塔は主祠堂、副祠堂、宝物庫、楼門の4棟から構成されている。
主祠堂の側壁には鬼面でありながら愛嬌のあるカーラの装飾が刻み込まれている。
ベトナム語でBanhはお菓子とか餅で、Itは少しの意味である。おそらく遺跡の容姿からお供え餅に見立てた呼称であろう。
この遺跡の敷地はかなり広く起伏もある。また、前日の雨で粘土質の道は滑りやすく撮影ポイントに移動するのに苦労した。途中から気付いていたが一人の少年が遠巻きにこちらを見ている。手招きしたら嬉しそうに近付いてきた。
君の名前は?(Ten la gi?)何歳?(Bao nhieu tuoi?)、兄弟は何人?(Co may nguoi anh chi em?)お母さんお父さんは元気?(Bo me khoe khong?)今日は学校に行ったの?(Hom nay di hoc chua?)家はどこ?(Nha o dau?)という私の問いに、
屈託ない笑顔で答えながら、半日、ちっちゃな助手として行動を共にした。
そろそろ日も落ちそうだ。夕景の撮影準備に取り掛かりながら、少年に帰宅を促した。興味津々だった大判カメラ用の撮影済みポラロイド写真1枚を今日のお礼に手渡した。
少年の宝物になるのか、変色しないようにシッカリと定着剤を塗った。少年は時折立ち止まり手を振り丘を下って視界から消えて行った。
振り返った視線の先は一面淡い紫色に染まりかけていた。
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